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春紫苑
もう、10年も前のこと。
園児の娘を連れて、近所の林道を散歩した。
花を見つけた彼女はそれに駈け寄り、
大事そうに両手で摘んで、私に差し出した。
「あげる。」
ハルジオンだった。
雑草の花を苦笑いして受け取った私を見て、
彼女は少し恥ずかしそうに笑みを浮かべていた。
その花は間近で見ると、とても綺麗であった。
5月の風が草花の薫りを運んできて、
彼女はまた私の前を元気に駈けていった。
ハルジオンの咲く季節。
今でもあの時の、娘の笑顔と風の匂いは、
はっきりと憶えている。
あれから10年の歳月を経てハルジオンは、
私の思い出の花になっていた。
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